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ハイツ野菜研究部

亀岡市旭町地図ハイツ野菜研究部は亀岡市旭町にあります。

京都府北部の亀岡市旭町に『ハイツ野菜研究部』という、野菜の研究所のような名前の農園があります。園主の中嶋さんにお話を聞いてきました。

中嶋さんの経歴を教えてください。農業をされる前は何をしておられたのですか?

学校を卒業して、最初、旅行会社(近畿日本ツーリスト)で働いていました。たまたま1年目の営業成績がトップになったのですが、営業ができた訳ではなく、そんなのは全くダメでお客さんが見かねて、旅行に申し込んでくれる感じでした。

園主の中嶋さんと研修生の岡田さん園主の中嶋さんと研修生の岡田さん

それで営業成績が良かったのですが、音楽が好きで、仕事もせずレコード屋に入り浸っていることがよくありました。あるときお客さんとの約束をすっぽかして、レコード屋にいると、会社にお客さんから電話が入り、営業所に帰ってから、上司に思いっきり怒られました。20歳くらいの時です。それで、仕事もせんとこんなことしてたらダメだと思い、旅行会社を辞めて、レコード屋に転職しました。

さぼるくらいだったら、それを仕事にした感じですね(笑)

レコード屋は17年くらいやりました。最初は雇われで、27歳の時に独立して、京都市内に『ハイツ』というレコードショップをオープンしました。それが、今の農園の名前のもとになったものです。

なぜ、レコード屋から農家に転身されたのですか?

ハイツ野菜研究部中嶋さん「物作りがしたかった。」と中嶋さん。

もともと農業には興味がありました。レコードもそうですが、人の作ったものを売っている訳じゃないですか。残りの人生を考えた時になんか作りたい。音楽を作るというと才能もいるし、運もいるので、ハードルが高い。野菜を作るのはハードルがない、すべての物を失った時にすることって、食べ物を作ることだと思います。だれがやっても罪ではないなと。

家が農家じゃ無かったので、縁は無かったのですが、いつか農業をやりたいと思っていました。35歳の時に仮に70歳まで生きたとして、35回レコードを売るのか、35回野菜を作るのかと考えると、良いトマトとかナスが35回しか作れない。修行期間も考えると、25回かも知れないし、20回もしれない。そんなことを考えると早く始めないといけないと思い農家になりました。それにレコードを売るのは辞めても、音楽が嫌いになることはなさそうだし、趣味として続ければいいかと。

それに僕は物欲は無く、コレクターではないので、レコードは全部売って、トラクターなんかを買いました。

ご両親が農業をやっていた訳でもないのに、よく農業をはじめられましたね。

ハイツ野菜研究部中嶋さん「見てきたことが大事」と中嶋さん。

闇雲なんです。計算することが苦手なんです。だから無施肥無農薬(自然栽培)につながっていると思います。計算できたら(無施肥無農薬なんて)できない。先日も勉強会で畑に興味のある人達に集まってもらったのですが、その時「野菜が畑の肥料分をどんどん吸っていくから、肥料分は無くなると思うのですが、なぜそれでも野菜ができるのですか?」と質問されました。

でも、それに明確に答えることができない。自分が畑でやってきて、見たことしか答えられないので、これまで9年やってきて、肥料を入れなくても野菜ができている。「だってできるんだもの」ということしかできなかった。

だからそれに説得力が無くて聞く方は困られたのですが。農業において、見てきたことと頭で考えることはどっちが大切かというと、見てきたことだと思うので。そういうところからも自分は無施肥無農薬に向かったのだと思います。

自然栽培の白菜自然栽培の白菜

元々農業を始める時は、慣行農法でも良いと思っていました。一番最初に行った研修先は北海道の農園だったのですが、そこは農薬も使う慣行農法の農園でした。行って一番最初にしたのは、農薬を蒔く仕事だったのですが、とても臭くて、その上その野菜を食べる?と思い、農薬を使う農業は嫌だと思いました。

もどって来て、久御山の上田農園さんという有機農家に研修に行きました。そこで、種のこと肥料を使わない農法があることを知りました。知らなくて有機栽培が限界だと思っていました。皆がF1の種のことも使っていることも分かってなくて、そこでハッと閃きました。目指せるとこまで目指してみよう。まずそこの世界を見てみないと足し算ができない。「みんながなぜF1の種を使うのか?」というのも固定種を使ってからでないと分からない。

最初は固定種、自然栽培、培土も使わないで野菜を作ろうとしました。でも。まったくダメでした。できのは豆くらいでした。

自然栽培の小カブ自然栽培の小カブ

なんでマルチを敷くのかもぶつかって行くうちにだんだん分かっていきました。ある日、5年目か6年目だったと思います。こっち(亀岡)に越してきて、自然栽培のベテラン農家さんの畑を見て、全く自分のやっているやり方と一緒でした。マルチをしいて、トンネルを作って、今の自分がしているやり方と全く一緒でした。それで答え合わせができたんです。後は季節のタイミングとか土地のタイミングを見計らうことができれば、野菜は作れるんやろうなというところに達して、後はタイミングを外さないやり方を突き詰めてきて、ようやく出荷ができるようになった。今はあんまりミスらないようになりました。

でも、年によって気候も色々あると思いますが、どうですか?

そこに負けない工夫もしていかないといけないし、土がどうしても合わないようなことがあるけど、接木を自分でやったりとか。自然栽培で長期にとり続ける果実とか夏の果実とか果菜類とかは接木で解決していた感じです。

今は有機栽培でもやれていますが、自然栽培と有機栽培の割合はどれくらいですか?

ハイツ野菜研究部の圃場ハイツ野菜研究部の圃場

以前は、6反〜7反くらいあったのですが、その時は全部自然栽培でしていました。 あまり良くない畑は返してしまって、新しく畑を借りました。新しく借りたところは、有機栽培が2反で自然栽培が1反です。少し有機栽培の畑が増える感じです。とりあえず野菜が取れる状況で安定させてしまわないと自分の目標である後進のを育てるということができないので、でも施肥するにしてもできるだけ減らそうと考えていて、どれたげ入れるのが適量なのかとういのを見ようとしています。

あまり入れずに結果を見ていく感じです。「入れたらできるやん」という結論になるのではなく、「どこまで入れたらできる」というのをみたいと思っています。

今、有機栽培の畑に入れられている肥料は何ですか?

米糠、アプラカス、石灰の3つです。肥料としてというかどちらかというと土壌改良のイメージです。

「作り手のエゴが出てしまっているところがあります。」と中嶋さん。「作り手のエゴが出てしまっているところがあります。」と中嶋さん。

全部自然栽培でしたいと思うんです。でも作物によっては作り手のエゴが出てしまっているところがあります。野菜それぞれ原産地があって、合っている土があって、それでも必ずしも絶対的な大きさのものがすべての木にできているわけじゃないじゃないですか。原産地であっても、それはやはりある程度作り手が手を施してやらないといけないと思います。合っているところであれば手を支えてやる程度でできるかもしれないけど、土が全く合っていないのであれば、若干は合わせないとできないのかなと。

僕は自然栽培と有機栽培の両方を実践して、無施肥の良さと施肥することによってここまではOKなんかなというとが見えてきました。双方の比較をすることができて、良い野菜ができるようになりました。

農園の名前の通り、研究されている感じですね。

「ロマンをおいかけたいです。」と中嶋さん。「ロマンをおいかけたいです。」と中嶋さん。

そうです。頭で考えてしまうとどうしても動けなくなるんです。作る作物をしぼってしまうと思うんですよ。それをしちゃうと面白くないというか、ロマンがおいかけられないですよね。そこをおいかけたいです。これでもできるんだというところを。

自然栽培でどんなものができてきますか?

夏野菜については、大玉トマトは有機じゃないとダメでパプリカと茄子、白丸なすびというのですが、それはずっと自家採種しています。冬場だとアブラナ科のお野菜。豆科は自然栽培です。スナップエンドウもずっと自家採種です。少し小さめですが、とても美味しいですよ。皆さんから褒めていただいています。

今後の展望というか夢は?やはり後進の育成ですか?

野菜のことを理解してもらうのって、食べてもらうより作った方が早いと思うんです。もちろん皆が皆できるわけじゃないのですが、家庭菜園とか栽培する人の数が増えれば、多分プロのやってはることって理解できると思うので、その一個のトマトの価値というのが分かってもらえるんじゃないかと思います。でも、それを全員に求めるのは無理だと思うのですが、興味のある人にはどんどん就農して欲しいと思っています。

食べるだけというのは理解できないところがありますものね。「甘い=美味しい」みたいに思っている部分ってあるじゃないですか。

「無いところから始めると見えるんです。」と中嶋さん。無いところから始めると見えるんです。」と中嶋さん。

そうなんです。 確かに自然栽培でも季節のタイミングによっては甘くなるんですが、限界があると思うんです。やっぱり何吸っているかによって味も変りますし、畑にいるといかに野菜が土から何を吸っているかというのが、自然栽培をすると余計に分かるのです。自分が肥料を入れはじめたというか土壌改良的なものを入れ始めると余計分かるのですよ。「あっ吸ってるな、吸ってるな」というのが分かるのですよ。「ああなるほど」ってなるんですよ。だから無いところから始めると見えるんですが、初めから入れていると見えないんです。見えた時にこんだけ吸ってたらやっぱり入れた分だけ濃くなるし、大きくなるなというのがはっきりと分かります。

野菜自体も入れたものの味になりますよね。

そうです。

今お客様の中で、固定種や自家採種を求めているお客様が増えているのですが、どのように思われますか?

「固定種の生態の季節に対する敏感さを知って欲しいです。」と中嶋さん。「固定種の生態の季節に対する敏感さを知って欲しいです。」と中嶋さん。

これは、畑で野菜を作らないことには分からないと思います。僕はこの時期コンスタントに蕪を出荷しているのですが、蕪って季節がかなり限定されている野菜だと思うんです。

例えば、固定種のみやま小カブを作ろうとすると10月に播種して12月の頭くらいが限界だと思うのです。それをずらして作るのって、無理なんです。花が咲くんです。筋張っててもそんなんでいいだというのなら出荷しますが、そんなのは消費者の方には理解してもらえないでしょ。

でもコンスタントにその代わり無施肥でF1の蕪を作り続けるという方が強いのじゃないかと思います。だからみなさんにも知って欲しいです。固定種の生態の季節に対する敏感さを知って欲しいです。

じゃ農家が固定種に絞りました。「食っていけますか?」と言われると本当に難しいと思います。だからそこの折り合いを農家さんがどう付けているかというのを知って欲しいです。その代わり無施肥でF1は使いますけどやり通してるんやと、施肥することがあたり前のF1を無施肥で育てる相性を苦労して見つけ出しているんだということを知って欲しいです。

F1って施肥することを前提に開発されていますものね。

だから種を選ぶんです。何が自分のところの無施肥の畑にあった種なのか、F1の種探しもしないといけないのです。だから結果よりそこに至るまでの過程が大事だと思います。

自然栽培の大根自然栽培の大根

例えば、みやま小カブをずっと自家採種したいと思っても、周りの畑でF1の蕪を作くられたら、(交雑するので)無理じゃないですか。おかれている環境にもよりますし、うちで自家採種しているスナップエンドウでも他のエンドウを他の場所で作らないといけない訳ですよ。実エンドウも作ってますし、絹さやも作っています。この3種類を隔離して作らないといけない訳で、そんなローテーションも自家採種するために工夫しないといけないんです。もちろん周りで他の農家さんが違う種類の豆を作っていてもダメですし、それくらい難しいことやってことを固定種や自家採種を求めるいるお客様は分かっていただけているのかというのも疑問だし。これくらいことをしないといけないのを理解してもらいたいです。

今回、お話を聞いてもっと、現場の思いや苦労を消費者の方にお伝えしないといけないと思いました。お客様も野菜は無農薬が良い、もっと言えば、肥料も入っていない方が良い。そしてF1のお野菜はダメで固定種や自家採種のお野菜の方が良い。明確な理由もなく、そういう情報を耳にして漠然とそう考えておられるお客様もおられると思います。でも無農薬で肥料も使わず、そして固定種や自家採種の野菜ではないと…それを作るのにはどれだけの生産者の苦労があり、実現するのが如何に大変であるか、それをやってその生産者がそれを生活の糧として永続可能であるか、いかに大変なことを生産者にお願いしているか、それをお客様に伝えていくことが私達流通の仕事でもあると改めて感じました。



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